最高裁判所大法廷 昭和34年(あ)266号 判決 1962年11月07日
主文
弁護人名川保男、同海野晋吉、同鈴木秀雄、同水谷昭の上告趣意第一点は理由がない。
理由
弁護人名川保男、同海野晋吉、同鈴木秀雄、同水谷昭の上告趣意第一点について。
憲法三九条後段の規定は、一の犯罪につき、裁判により処罰された上は、同一の犯罪について重ねて処罰されない趣旨を定めたものであり、刑罰法令で一の犯罪に対する法定刑として主刑及び犯罪に係る物の没収又はその物を没収することができない場合にその価格相当金額の追徴を併科しうべき旨の規定がある場合において、右規定に従い、一の裁判によりその一個の犯罪につき法定の主刑及び没収又は追徴を併科することは何ら憲法同条後段の禁止するところではない。
本件についてこれをみるに、原審の是認した第一審判決は、被告人の不実低価申告による判示貨物全部についての一個の関税逋脱罪について旧関税法(昭和二九年四月二日法律第六一号による改正前のもの)七五条一項により法定刑である懲役及び罰金を併科すべきものとし、被告人を懲役一年及び罰金七〇万円に処し、且つ、右関税逋脱は本件貨物全般に亘り貨物全部は被告人の所有であるからその全部を同法八三条により没収すべきところ、本件貨物のうち没収することのできる分の換価代金(主文四項記載)はこれを没収し、残りの分は他に処分され没収することができないので同条によりその価格相当金額(主文五項記載)を追徴すべきものであるとの趣旨で主文の主刑及び没収、追徴を言渡したのである。してみれば第一審判決を是認した原判決には所論憲法解釈の誤はない。
なお、所論は、本件被告人の所為は関税の一部の逋脱に過ぎないのみならず、本件貨物は本件逋脱行為そのものに関係がなくこの貨物に関する逋脱税は別途に追徴せられたから違法の状態をも脱したものとみられる、と主張する。しかし、第一審判決の事実認定によれば、被告人の関税逋脱罪は、本件貨物全部につき不実の低価申告をしてこれを輸入することによって犯されたもので、本件貨物は右犯罪に係る貨物というべきであるから、これを所論のように本件逋脱行為そのものに関係がないとはいえない。また、被告人が逋脱したため別途徴収された分の関係は本件犯罪に対する刑事処分ではないからこれが課せられた上に主刑及び没収又は追徴を科しても重ねて処罰することにはならない。
論旨は理由がない。
よって刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 斎藤朔郎)